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2013年08月31日

キング牧師の言葉

 「I have a dream~私には夢がある」 キング牧師がこの歴史的な名演説を説いたのが、1963年8月28日。今年で50年になります。現在、アメリカの黒人差別問題はかなり改善されましたが、まだ南アフリカなど多くの国ではキング牧師が夢見ていたことが実現できないままです。

 校長通信「I have a dream」でも演説の原文の一部を紹介されていましたが
私には夢があるMLキング説教演集/クレイボーン(新教出版社) などで読むことができます。
 
 マーティン・ルーサー・キングは、1950~60年代にかけてアメリカの黒人差別に対してたたかう公民権運動の中心、非暴力主義の指導者でした。
キング牧師~伝記・世界を変えた人々/V.シュローデト(偕成社)では
マハトマ・ガンジーの考え方に心を揺り動かされたこと、ジョン・F・ケネディ大統領との出会い、何十回も逮捕されたこと、そして1964年のノーベル平和賞受賞、1968年に暗殺者の弾丸に倒れるまでの生涯を綴ってあります。

 また、キング牧師の力づよいことば/ドリーン・ラパポート、もりうちすみこ訳 (国土社)は、キング牧師の言葉を絵本で紹介。
 同じ黒人開放指導者でもキング牧師とは対照的なマルコムX氏と比較したキング牧師とマルコムX/上坂昇(講談社) などの本もあります。


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2013年08月30日

新着図書紹介 13

島はぼくらと/辻村深月 (講談社)

 舞台は瀬戸内海の小島。過疎に悩んでいたものの、都会からのIターンを積極的に受け入れたり、地方再生プロジェクトを立ち上げたりして、住民の工夫と協力で活性化を図っています。
 しかし、もとから暮らす島の人々、都会からの移住者、仕事で来ているよそ者、すべての人達が田舎ならではの、濃厚で小さなコミュニティー(島)になじめるわけではありません。しがらみが重いと感じる事もあれば、つながりが深いからこそ生まれる思いや希望もあります。

 そんな島の様子を、島で暮らす男女4人の高校生の目を通して描きます。島には高校がないので、フェリーで本土の高校へ通う4人。部活をしていても帰りのフェリーの時間を思うと、数十分しか参加できない、不便な日々。そして卒業したら本格的に島を出ていかなくちゃならない。故郷で友人たちと過ごせる時間はあと少し。
 都会と違って一緒に過ごせる時間が最初からはっきりしている(中学までとか、高校までとかの十数年間)両親もまた、それだけの思いを持って子育てをします。帰れる場所がある彼らを通して「故郷」「島で暮らす」ということを、いろんな角度から描いた作品。


わたしたちが少女と呼ばれていた頃/石持浅海 (祥伝社)

 名門女子高校・特進コースに通う碓氷優佳。彼女は日常のちょっとした事からおこる問題を見つけ、冷静に観察・判断し、解決する能力を持ち合わせています。
そんな様子を目の当たりにして、びっくりする友人・小春の目線で描いた物語。
 赤信号と成績にまつわる学園にひろまる噂や、夏休み明けに成績が急によくなったクラスメイトの謎、など高校3年間におこった出来事をまとめた短編ミステリー集。
 大人になった優佳が、名探偵になり活躍する事件は、扉は閉ざされたまま(祥伝社) などの碓氷優佳シリーズで読むことができます。

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  * 夏休みの長期貸出の返却期限は28(水)でした!
    まだ手元に持っている人は、すみやかに返却を。

2013年08月21日

明日から2学期

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     入道雲にのって 夏休みはいってしまった
    「サヨナラ」のかわりに 素晴らしい夕立をふりまいて

高田敏子さんの「忘れ物」という詩の冒頭です。
今年の夏は本当に暑くて、夕立を目にすることはほとんどありませんでしたが
確かに夏休みはいってしまいましたよー。
明日から2学期です。準備はいいですか?

2013年08月20日

緒方貞子さんのこと

 国連難民高等弁務官事務所:UNHCR(United Nations High Commissioner for Refugees) そこは世界各地で迫害や戦争によって、故郷を追われた人々に保護と支援を行なう国連機関です。
 そのトップである国連難民高等弁務官に世界初の女性として就任したのが緒方貞子さんです。1991年、63歳の時でした。それから10年余り、難民救済のため世界を駆け回った活動の様子と緒方さんの半生を描いた「緒方貞子~戦争が終わらないこの世界で」が先日、NHKスペシャルで放送されました。

 防弾チョッキを身に着け、自ら危険を冒し世界の紛争地へ赴く、超・現場主義の緒方さん。
 国内の避難民(国境を越えていない)は難民ではないから、保護すべきではないとするUNHCRに対し「ルールを守ることより命を救うことが大事だ」と国内避難民にも国連の支援を得て行った救援活動、危険すぎるからと国連に国際部隊の派遣要請を断られたアフリカでは、直接現地の軍隊に交渉して難民キャンプの治安を確保、いずれも緒方さんが行った異例、かつ初めての試みです。
 その前例に取らわれない決断力。最後は一瞬のカンだと話されていました。そして、熱い心と冷たい頭をもって、と。
 希望に満ちた事も、絶望に追いやられた事もあったそんな10年間をまとめたのが、紛争と難民:緒方貞子の回想/緒方貞子(集英社) です

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 その同じ時期にハリウッド女優のアンジェリナ・ジョリーさんが、UNHCRの親善大使を務めていました。その時の様子を彼女自身がまとめた思いは国境を越えて(産業編集センター)
 各地の難民キャンプを訪問、そこで人々と生活するうちに彼女の考え方が変わっていく様子を日記と写真で綴っています。自ら知り学ぶことで、ニュースのヘッドラインだけで判断しない様になるはずだと言います。

 直木賞受賞作の 風に舞いあがるビニールシート/森絵都(文藝春秋)
UNHCRで働く人たちを描いた作品。
 パートナーであるエドを『温かい家庭』をもって、安全な場所に引き止めようとする里佳に「難民キャンプでは人の命も尊厳も、ささやかな幸福もビニールシートみたいに簡単に舞い上がって、もみくしゃになって飛ばされる。荒ぶる風に抗い続けるためには、誰かが手を差し伸べシートをしっかり大地に引き止めなくちゃならないんだ」と言って、紛争地勤務を希望し続けるエド。
 そして、エドが難民の少女をかばい銃弾に倒れたという知らせが届きます。残された里佳のくだす決断は・・・

2013年08月05日

こんな本を読んだ・追記

 第1回「こんな本を読んだ」に登場してくれた中井先生、読後に思い出した15年前の心残りを少しだけ晴らしてもらいました。  


中井先生の「いのちの授業」 (プチ) 

 デスエデュケーション(「死」とその周辺で起こることを考え、学ぶ教育)とは、「死」を見つめることを通して「生」を考える教育といわれています。通り魔事件などのひどい事件が起きると「いのちの教育」が注目され、命の尊さを教えなければならないと声高に叫ばれます。

 しかし、死別の悲しみは、ひどい事件に限らず、世の中の至る所にあります。本書・前書きの中で筆者は『「死」をタブーにしてしまうのではなく、「死」について開かれた対話をしていくことが、私たちの社会を住みやすいものに、多くの人にとって「生きていてよかったな」と思える社会に変えていく原動力になる・・・・』と述べています。

 私たちの死生観は、経験に影響を受け年齢とともに変化すると思います。また、地理を含めた私の授業のテーマでもある「豊かさとは何か」にも、「いのち」は大きく関係しています。
 倫理の授業で、世の中に正しいものはあるか。カントの批判哲学、道徳法則を説明するときに「いのち」の話をしていました。「絶対にこれが正しい」とは言い切れない問題、これをこの本を手掛かりに深く考えてみてください。

 「死」というテーマは扱いにくく、考えるのも無駄だという意見もあると思います。
しかし、私たちのこれからの生き方として、「これをすれば得、こんなことをしていては損」という価値観だけではなく、あるがままを受け入れ、失敗さえも自分のものにするという考え方が必要だと思います。
 究極的には、「私たちにとって無駄なものなど何もない」はずです。もし、今までそう考えて、私たちが捨ててきたものがあるとすれば、その価値をもう一度、吟味し一つ一つ拾い集めて大切にしなくてはなりません。「無駄だと思っていたことも大切にする」こと、合理的に進めてきたことをこれからは疑うことも重要です。

 本書の後半に「勝ち組」「負け組」をテーマに論じられています。やはり、市場原理とは切り離して考えなければならないことが多くあるはずです。不合理を愛し、無駄をも大切にする時間を持つことが必要なのかもしれません。
 私自身、目の前の損得にとらわれており、無駄をも大切にするなんてことはとても難しいと実感します。しかし、人生の中で感動・対話・読書・思索し、残された時間の中で少しでもそれを意識することができればと思います。

     *文中の本書とは、前回紹介した「高校生のための『いのち』の授業」です

2013年08月02日

「こんな本を読んだ」

 これから時々このブログで、先生方から本の紹介をしてもらおうと思います。
読んだ本の感想、紹介、おすすめ本はもちろんですが、みたテレビや映画に関連した本などなど。本にまつわるあれこれを語っていただければいいなと思っています。(イチ押しの本屋さんを紹介してくれる先生もいるかも?)
まず1回目は、中井教頭先生の「こんな本を読んだ」です。夏目漱石の夢十夜を真似て、この書き出しで始めましょう。

 こんな本を読んだ。
図書室の新着未登録の中に積んであり、たまたま手に取った1冊。未登録をそのままかりるわけにもいかず、本屋さんへ。

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 高校生のための「いのち」の授業/古田晴彦 (祥伝社)

 かつて、「倫理」を担当した時に、「いのち」については「時間をかけて授業ができなかったなあ…」「教科書レベルで終わったなあ…」と後味の悪さを思い出しました。 それから15年以上、自分自身が年を取り(着実に死に近づき)、近親者を含め人の死を体験するにあたり、この本によって、授業が自分の中でも消化不良だったことや、「こんな授業をしたい」「高校生に学んでほしい」という思いがよみがえりました。

 筆者は、関西学院高等部の社会科の先生で同業者。授業と同じく本の中でも対話の中から身近な事例を紹介しつつ、「生命の誕生」「死」「「生きる」「家族」「幸せ」と説きすすんでいきます。
 各テーマの最初には、Qとして「あなたは・・・・」のように質問に対する書き込みのページがあり、読者の持つ知識や概念を確認しています。平易な文章の中に、読みながら考える、読んだ後にまた考えるという作業を繰り返すことができます。
 また、参考文献として紹介されているものも魅力で、より深く学ぶことができるようにも思います。ものの見方・考え方が広がり日々の生活に生命や家族をより感じられるかもしれません。あわせて、この本の目的ではない卑近な例で言うと、大学入試の小論文対策になるかもしれません。

 好きな福山雅治さんの『家族になろうよ』も書中に扱われています。読後、カラオケで熱唱させていただきました。
 授業をする機会がないと思い、本書は哲学科志望の現高2生徒に薦めてみました。「身近なことを例示していて納得しながら読むことができました」と感想をもらいました。ぜひどうぞ!