グローバル教育〔 地球的規模で考える 〕
インドネシア研修
インドネシア研修「Mog」事前トレーニング6回目
現地で掴む世界のリアル
まもなく始まるインドネシア研修に向け、現地企業との連携や問題解決の理論学習だけでなく、「世界経済の潮流」と「途上国の抱える深い課題」について、熱量の高い事前学習を行っています。今回は、その白熱した議論と学びの一部をご紹介します。
研修を支える理念と人的ネットワーク
本研修を企画・運営する「Very50」は、2008年に設立された団体で、単なるボランティアではなく、「持続可能な社会変革」 を目指す起業家精神を持っています。
今回講義を行っていただいた菅谷代表は、20代でタイのプロジェクトに参加した経験を原点に団体を設立。特に注目すべきは、主要メンバーの多くが、かつて高校生としてこの研修に参加し、その理念に共感して戻ってきた「卒業生」たちである点です。生徒たちは、卒業後もキャリアとして社会課題に向き合う先輩たち と接することで、「学び」が「仕事」や「人生」に直結するリアリティを感じています。
また、インドネシアの注目スタートアップの創業者も、本校の卒業生であり、現地での協力者となっています。これは、生徒たちが単なる観光客ではなく、「世界で活躍する起業家」 という未来像を具体的に描く上で、大きな刺激となっています。
議論のテーマ:インドネシアの「発展途上」とは?
研修先のバリ島は、観光地として知られていますが、生徒たちはその裏側にある複雑な現実に目を向けています。
1.途上国か、否か?
生徒たちに「バリ島(インドネシア)は途上国か?」と問いかけたところ、意見は半々に分かれました。インドネシアは現在も途上国に分類されますが、貧富の差が激しい 現状があり、地域によってその顔は大きく異なります。
2. 歴史と文化が絡む社会問題
・宗教とジェンダーの問題: インドネシアの多数派はイスラム教ですが、バリ島は独自の バリ・ヒンドゥー教 が根付いています。歴史的背景からバリ・ヒンドゥーの教えには、特に女性の権利に関して厳しい慣習が残されており、離婚の難しさなどが議論されました。
・「オーバーツーリズム」と資本の戦い: 観光客の増加(オーバーツーリズム)は、美しい景観や自然の破壊を招き、現地住民の生活を脅かしています。これは、かつて1960年代にバリ島で起こった 大虐殺と土地収奪の悲しい歴史(アニミズム信仰を守ろうとした住民が犠牲になった出来事)とも無関係ではありません。
生徒たちは、この問題を解決しようと、観光業の恩恵をローカルに還元する 「マングローブ林の再生」 に取り組む現地企業(ファジャール氏)の事例を学びました。これは、単なるCSR活動ではなく、CO2吸収力が通常の森林の8〜10倍 とされるマングローブを活用した、持続可能なビジネスモデルです。
世界経済のダイナミクス:未来の仕事はどこにあるか?
生徒たちは、日本経済の長期衰退傾向と、世界経済の急成長について、衝撃的なデータを学びました。
1. 人口大国インドネシアの台頭
・インドネシアの人口は、中国、インド、アメリカに次ぐ 世界第4位 の約2億6,000万人です。これは、企業にとって 「巨大な顧客数」 を意味します。
・日本にとっても、インドネシアは最も重要なパートナーの一つであり、日本の国際協力機構(JICA)が世界最大のオフィスを構える場所でもあります。
2. グローバル・サウスの時代
・将来、世界で生み出される富の約70%は、アジアやアフリカ、中南米といった、いわゆる 「グローバル・サウス」 の国々から生まれると予測されています。
・この現実を踏まえ、生徒たちは、「どの国にグローバル展開するか」を考える企業経営者の視点を持ち、「GDPと人口」 を分析する演習を行いました。
「GDPが極端に低すぎず、成長の余地があり、かつ人口が多い国」 へと、ビジネスは向かう。インドネシアはまさにその中心にいます。
3. 「マスツーリズム」の裏側と富の再分配
観光業は「世界最大の富の再分配システム」と言われますが、生徒たちはその実態に踏み込みました。
・観光客が落とすお金のうち、本当に現地のローカルな人々に届くのは ごく一部(約14%という説も) であるという現実を知りました。
・この「再分配の歪み」が、観光客の増加による迷惑行為(オーバーツーリズム)への地元住民の不満を増幅させている構造を理解しました。
生徒たちは、この矛盾に直面し、「どうすれば観光客のお金が、真に恩恵を受けるべき漁師やローカル住民に届くのか」 という問いに向き合っています。
地上げとスラム街:発展の代償を知る
最後に、生徒たちはバリ島でも見られる 「スラム街」 の実態を学びました。
・土地が安く買いたたかれ(地上げ)、住む場所を失った農民が、建設工事で一時的に稼いだ後、結局故郷に戻れず首都の都市部に流れ込むという構造。
・都市部に逃げてきた貧困層は、洪水が起きやすく、不潔で危険な「目立たない場所」(例:橋の下、線路沿い)に集まり、スラム街が形成されます。
これは、インフラや社会保障が不十分な地域において、発展の波に乗れない人々が直面する、「命の安全」 に直結する課題です。
本研修は、単なる異文化体験ではありません。生徒たちは、歴史、経済、社会構造といった多岐にわたる視点から世界のリアルを学び、その中で「自分たちが生み出すアイデア」が、誰かの生活や社会の未来を左右する可能性があるという責任感を育んでいます。
彼らが現地でどのようなインサイト(顧客の心の奥底にあるニーズ)を発見し、どのように価値を生み出してくれるのか、今後の活動にどうぞご期待ください。


