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  「敦煌」「しろばんば」「あすなろ物語」などで知られる作家の井上靖さんが、座右の銘としてよく色紙に書かれていた言葉があります。『養之如春』
 これを養うこと春のごとし。春の陽光が植物や動物を育てるように焦らずゆっくりと、という意味です。
 中国後漢の歴史家、班固が前漢に関する史書「漢書」の中で記したもので、初めて読んだ時にとても印象深く、春が来ると思い出す言葉になりました。
 漢書では 『涵之如海 養之如春/之(これ)を涵(ひた)すこと海の如し 之を養うこと春の如し』と続きます。学問や見識は、海のように広い文化的教養にたっぷり涵らせ、春の陽ざしが万物を育てるように養っていきましょう。万事、焦らず、じっくりやりましょう、というような意味。
 一昨日は中学の卒業式。先月は高校でも卒業式が行われ、それぞれ3年生を見送りました。まだ受験の真っただ中にいる高3生もいますが、節目を迎えたみなさんにこの言葉を贈ります。

 ところで、漢文(漢詩)と言えば、この季節、教科書でもおなじみなのが 『春眠不覚暁/春眠 暁を覚えず』 ですね。孟浩然の詠んだ『春眠』の第1句です。「春の夜はまことに眠り心地がいいので、朝が来たことにも気付かず、つい寝過ごしてしまう」 (大辞泉より) 全くです。
 それを、女子感覚の現代語訳にしたのが足立幸代さん。ずばり 「春の朝寝は最高だ」 布団から出られない人生屈指のしあわせ時間の詩として訳しています。

 「漢詩、結構おもしろいよー」の気持ちで解釈する足立さんの手にかかれば、詩経の中の一つが、初デートの待ち合わせ中、浮かれている男子だけどドタキャンのにおいがする・・・(静女) となり、李白の詩は、友達とは少しでも長くいたい、名残惜しくてもじもじしちゃう・・・ となります。昔の人も現代の私たちと大してかわらない、と思えるのでは?春の宵、漢詩に挑戦してみませんか。
     
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気ままに漢詩キブン/足立幸代・編著 三上英治・監修(筑摩書房) では、それぞれの漢詩の、原詩・書き下し・訳詩・注釈・が紹介され、独特のイラストも添えられています。