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立春の卵

 明日は立春です。
 70年ほど前、普通は立つはずのない卵が立春に限って立つという噂が話題になり、実際に立った卵の写真と共に新聞に掲載され世界を駆け巡りました。

 この報道に疑問を感じ、卵を徹底的に調べたのが北海道大学(当時)の中谷宇吉郎教授でした。そして『立春の卵』というエッセイにしています。中谷教授の専門は低温科学で、世界初の人工雪作成に成功した人物。   

 立春は中国の暦・二十四季節の一つです。中国では春が立つくらいなんだから卵ぐらい立ってもいいだろう、でも米国の卵はそんな暦を知るはずないし・・・。あるいは卵が地球の軌道上の動きを知っていて立春がわかる? いかにも不思議です。 早速、中谷教授は家の卵で試してみます。すると立つんですね、立春じゃないのに。

 中谷教授は卵の殻を顕微鏡観察したり、力学計算をおこなったりして、立春でなくとも卵を立たせることが可能であることを明らかにします。
 卵は立つ。コロンブスの時代から何百年もの間、世界中で卵が立たなかったのは、皆が立たないと思っていたから。目の前にある現実を見逃していたことがわかったことこそ、この話の大発見だ。

 人間の眼に盲点があるのは誰でも知っているけれど、人類にも盲点があることはあまり知られていない。卵が立たないと思うくらいの盲点は大したことではないけれど、これと同じようなことがいろんな方面にありそうだ。人間の歴史が些細な盲点のために左右されることもあるんだ。
 中谷教授はエッセイをそう締めくくっています。
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   卵立て挑戦してみますか?
   詳しい方法はエッセイに書かれています。
   中谷宇吉郎随筆集(岩波書店)

   又、「立春の卵」として青空文庫(インターネット)でも
   公開されていて無料で読むことも出来ます。