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第158回芥川賞

 若い世代が主人公の「青春小説」に対し、「玄冬小説」というものがあるそうです。歳をとるのも悪くない、と思えるような小説だそうです。
 「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」 これは古代中国の思想、陰陽五行説による四季を表す言葉。それを人の生涯にあてはめると、みなさんのような世代が「青春」、老年の世代が「玄冬」です。

 今回、芥川賞に選ばれた作品の1つ おらおらでひとりいぐも/若竹千佐子(河出書房新社)は、74歳の桃子さんを主人公にした玄冬小説です。
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 若い時に集団就職で上京した桃子さんは、その人生を理想的な女性、妻、母親として生きてきました。ただ若い時に最愛の夫を病気で亡くし、成長した子ども達とは疎遠になっています。そして長年かわいがっていた愛犬も亡くした今、いよいよ桃子さんは独りになりました。
 「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」
 桃子さんの心のうちから湧きあがる言葉は、若き日を思い、近い将来訪れる死を思い、夫のこと、子どもたちのこと、時にはユーモアあふれる言葉で綴られていきます。桃子さんの故郷・東北の方言はまるでリズムを刻んでいるようです。

 タイトルの「おらおらでひとりいぐも」は宮沢賢治の詩『永訣の朝』の一節です。偶然にも直木賞と並んで宮沢賢治に関わる作品の受賞となりました。
 岩手の方言で「私は私で、一人でいきます」という意味。賢治の最愛の妹・トシが亡くなる前に、賢治につぶやいた言葉です。