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常務理事便り

2026年06月08日
Vol10 いざ、遊佐へ
~雲雀丘学園常務理事 成地 勉~

さて先日、剣道に縁ある先輩・同輩の方々とともに、亡き師匠の故郷を訪ねる機会を得ました。そこは、およそ五十年前、師匠に伴われて夏合宿を行ったゆかりの地でもあります。今でこそ飛行機とレンタカーを乗り継げば三時間ほどで到着しますが、当時は寝台特急「日本海」に揺られ、一夜を明かして酒田へ向かったものでした。目的地である遊佐町は、酒田市の北に位置し、秋田県との県境に接する町です。往時の記憶はすでにおぼろげになりましたが、厳しい稽古のこと、初めて口にしたこの地特産の枝豆「だだちゃ豆」の滋味、荘内米で握られた塩むすびの味わい、そして稽古の後、地元の先生方を交えて連夜催された大宴会の賑わいなどは、今なお鮮やかに心に残っています。

酒田沖の夕陽

湖面に映った月山

鳥海山遠望

鳥海山五合目より頂上を見る
その一方で、当時すでに美しかったであろう景色や風土については、驚くほど記憶に残っていません。今回の訪問に参加した仲間たちは、若き日には皆、剣道一筋に打ち込む青年でしたから、稽古に励み、食を満たすことに心を奪われ、見知らぬ土地の文化や風景に心を寄せ、人と人とのご縁のありがたさに思いを致す余裕まではなかったのでしょう。けれども今回の旅では、この地に広がる豊かな自然の美しさと、人のつながりの尊さとを、心の深いところでしみじみと味わうことができました。師匠は、折に触れて誇らしげに故郷を語っておられましたが、そのお心も今ならよく理解できます。鳥海山の恵みに育まれた自然と、そこに生きる人々とのつながりを大切にしながら、奇をてらうことなく朴実に暮らすその姿に接していると、そこにはまさしく「足るを知る」という、気高くも静かな生のありようが息づいているように思われました。学生時代とはまったく異なり、出会う景色も、出会う人も、その一つ一つが心を豊かにしてくれる旅となりました。
